漫画家マンガの世界

漫画家を主人公にしたマンガ「漫画家マンガ」を語ります

劇画漂流(上)

『劇画漂流(上)』 辰巳ヨシヒロ


正統的な漫画家マンガである。
漫画好きの少年がプロ漫画家に育っていく物語。
ほぼ家庭と出版社と同業者しか出てこない。
主人公(作者)はひたすら漫画を読み、業界を歩き廻り、漫画を描き続ける。


もっとも作者からは、
「劇画家ゲキガと呼ばんか!」
とぶっ飛ばされそうな気がしないでもない。
大阪の貸本漫画から現れた彼らのグループは、自分たちの作品を劇画と称した。


手塚治虫は学生時代から亡くなるまで40年以上も作品を発表し続けた。
発表の舞台は単行本から月刊誌、週刊誌、アニメと移っていき、各時代にファンがいる。
作者は最初期の、単行本時代からの手塚ファン。
トキワ荘グループ(石森、赤塚、藤子ら)や松本零士や(前回書いた)石川球太らと同世代であり、「漫画少年」の常連投稿者でもあった。


うーん、それなら一歩間違えばトキワ荘入りしていてもおかしくないんじゃないの?
彼を大阪に引き止め、劇画工房を作ったりさせたのは一体何だったの?
と考えてしまう。
やはり大阪には東京に負けない有力な貸本漫画出版社があったからなのだろう。


貸本屋がバタバタと潰れたエポックな時期に、私は大阪の劇画家志望者たちがぞろぞろ連れ立って東京に現れた姿を見たことがある。
私には彼らひとり一人の顔と名前を一致させることができなかった。
今から考えれば非常に残念なことなのだが致し方ない。
彼らの大阪弁が怖く、話しかけることができなかったのだ。
仲間うちで遠慮なしにすさまじいテンポでかわされる大阪弁。
読みながら、それを半ば懐かしく思い出した。


上巻は「影」(数人の作品を並べた短編漫画誌)の誕生まで。