漫画家マンガの世界

漫画家を主人公にしたマンガ「漫画家マンガ」を語ります

犬を飼う そして…猫を飼う

『犬を飼う そして…猫を飼う』 谷口ジロー


漫画家マンガと言えるかどうか。
老いた飼い犬を看取る話が『犬を飼う』。
犬の死後に猫を飼い、子猫が生まれて猫三匹と暮らすことになる話が『猫を飼う』である。


漫画を描くシーンがない。
漫画家らしい生活の描写もない。
ただ視点が谷口ジロー自身。
カテゴリーど真ん中は無理でも周辺部になら突っ込んでも許されるだろう、とかなり強引なジャッジを下した。


『犬を飼う』は1992年の小学館漫画賞審査員特別賞受賞作。
書いておけばこのブログの格も上がりそうな名作中の名作だからだ。
ハードボイルド劇画家だった谷口ジローが「文学する漫画家」と呼ばれるようになるきっかけもこれが作った。


谷口ジローの絵は白っぽい。
前回書いた島本和彦の『アオイホノオ』と比べるとまっ白だ。
これは『アオイホノオ』の黒さが格別、とも言い得る。
『アオイホノオ』はほとんど全てのコマに効果線(斜線)が入れられ、ページ全体がまっ黒に見える。


黒く見える効果線は迫力や動き、スピード感を出すために入れる物だから、谷口の絵はこの逆。
ページから飛び出して襲いかかってくるような迫力も、スピードのある動きもない。
しんしんと静かで、清い。


しかしよく見るとコマの中には細い線が丹念に描き込まれ、省略すべきところは省略されているその線の正確さに驚く。
(我田引水になるが、わが殿板橋克己もこれに近い線を引く)


谷口ジローといえば『孤独のグルメ』、と思っている若い人たちに言っておこう。
谷口は動物もうまいのだ。


私が小・中学生の頃、とても好きだった漫画家に石川球太という人がいた。
石川は当時の動物漫画の第一人者で(戸川幸夫の『牙王物語』を漫画化したりした)、石森章太郎の『漫画家入門』では動物漫画の描き手は石川球太しか挙げられていなかった。
(つまり第一人者というより唯一人者だった)
谷口はこの石川の弟子なのだ。
(「影響を受けた」と当人も言っている)


『ウル』 石川球太


『犬を飼う』でも石川球太的な犬の絵を見ることができる。
死にゆく犬の有様がリアルに描かれ、残酷で悲しく美しい。