漫画家マンガの世界

漫画家を主人公にしたマンガ「漫画家マンガ」を語ります

刑務所でマンガを教えています

刑務所でマンガを教えています』 苑場凌&JKS12


身内の弁護士からの推薦作品。
弁護士君いわく、
「東京弁護士会の売店でも売りそうな本」


『重版出来』『おかあさんの扉』なども今読んでいるところだけれど、長いので容易に読みきれない。
本書は楽に読めた。
多くの皆さん、特に漫画家志望者のかたたちにはお薦めなので、先に書いてしまいます。


刑務所といっても、舞台は日本初のPFI刑務所


PFI刑務所とは聞いたこともなかった。
本書の説明によると、
「国(法務省)とともに、民間企業が、経営能力や技術を生かして、公共施設を運営している刑務所」


で受刑者といっても、ここのは、
「平均で刑期3年程度の、犯罪傾向が進んでいない初犯の受刑者」
だそう。
犯罪を犯した人と言われるとおっかないが、まあそれほどビビって向かい合うことはない、ということだ。


私が連想したのは(当然かもしれないが)『あしたのジョー』だった。

何かに真剣に向かい合うことで(そういう経験を初めてすることで)、それまで半端な生き方をしてきた若者の生き方が変わる。
これが本書と『あしたのジョー』に共通するテーマだ。


スポーツで真の人生に目覚める少年漫画のヒーローは幾人も見たことがあるが(吉川英治の『宮本武蔵』なんかもそれだと思うが)、漫画が更生ツールになるとは!
大変驚いた。


漫画は自己表現。
内向しなければ描けない。
鬱屈した心を溜めて、原稿用紙に叩きつける感じが必要だ。


筋肉を使うスポーツならば破壊欲が満たされ、それによって鬱屈を発散することもできるが、漫画はとことん内向きに溜め込む。
もともと内向きの人には良いが、必ずしも刑務所にそのタイプが多いわけではないだろう。
漫画はお役に立てないのではないか、と思った。


ところが作者は賢かった。
『あしたのジョー』だと丹下段平にあたる作者は、教える内容をはなから「漫画の背景」に絞ってしまう。
(ネームの描き方などは仕込まない)
私はこれで、
「ああ、なるほど!」
と合点した。


背景描きだけなら内向きにならずに済むのだ。
けして単純な作業ではないが自己との対峙は不要になる。
「丁寧さと根気」
それにデジタルのツールを駆使して描く方法を教えていく。


絵描きさんの目で見ると、絵を見るだけで、
「その人間の、物事に対する姿勢」
がわかってしまうのだそうだ。
(剣客が、向かい合った相手の力量のみならず人柄までわかってしまう
という、剣豪小説のアレみたいな話だ)


教え子の絵の描き方が変わったことで、その教え子の心の変化も読み取れてしまう。
恐ろしくもまた素晴らしいことでもある。


そして、これは時代背景の問題だが。
今は、漫画の背景画がネットで売れるという。
つまり商品になる。
このような条件が整って初めて、漫画は更生ツールになりえた。


「あしたのために!」
という、作者と教え子の声が聞こえてくるような、刺激的な面白い作品だった。