漫画家マンガの世界 by 風媒花

漫画家を主人公にしたマンガ「漫画家マンガ」を語ります

東村アキコ完全プロデュース 超速!!漫画ポーズ集

絵が描ければなー、と思ったことは生まれてこのかた何度もある。
ネーム原作も描ければ描きたい。
しかし実行に移す前に、志は志にならず消えている。


中学時代から、漫画家志望の子を大勢見てきている。
みんな絵は超絶うまい。
志望するからにはこういう人は「絵がうまいねうまいね」と言われて育ってきたので、
「おらが村じゃ、村始まって以来の天才と呼ばれておっただー」
というのまで少なからずいた。
私などが太刀打ちできるはずはない。
(中学高校を通じて美術の成績は5だったがペーパー試験で常に90点以上をとっていたからだ)
さっさと撤退するのが合理性というもの。


でも、いやそれなるがゆえに、
「絵描きの頭の中はどうなっているのか」
に、多大の興味があった。
今も。
ずっと、いつも、ある。


殿に初めてお会いした時も、そればかりうかがっていた。
「メカは細部まで頭に浮かんでいるんですか?」
「いや浮かばないところもあって、細かい所の裏側とか。
それが模型を作るとわかるんで面白いから模型にするんです」
てな会話を長時間していた。


書店では絵の技法書もよく立ち読みする。
この本をみつけ、大笑いして思わず買ってしまった。
自分で漫画を描くわけではないから実用にはならないが、無駄な買い物ではなかった。
漫画絵に対する考え方が面白い。


東村アキコは「今」を代表するような漫画家だ。
で彼女が、筆の遅いアシスタントにこう怒鳴る。
(そっくりの引用ではなく、だいたいの意味で書いておきますが)
「顔にバッテンを描いて目鼻の位置をつけたりするなーっ。
大切なのは輪郭、輪郭を描けーっ」
写真のポーズ集をプロデュースするに至る動機が、
「輪郭を描けーっ」
だったそうだ。


漫画絵を描くのに、描く物を立体としてとらえてはいけない。
輪郭だけ意識すれば物凄く速く描け、漫画にはこれで足りる。


感動的なお言葉で。
彼女はつまり西洋絵画の理論をちゃぶ台返しにし、クラシカルな日本画(東洋絵画)で使われていた、描き方、考え方、頭の使い方をしないと、現代の漫画家が必要とするスピードは出せない、と言い切っているのだ。
すんばらしい、と思った。


面ではない、線で描け!
である。


私たちの時代には、編集者は漫画家志望者に向かって、
「模写をしなさい、模写です」
と指導していた。
模写はプロ漫画家の絵を盗むことになるが、それがそのままその人の絵柄であり続けることはない。
描いて描いて描きまくるうち、いつのまにかその人独特の絵柄、個性が現れてくる。
あーら不思議。


だからオリジナルの絵を描こうとするのは、
「君などには10年早いよ」
ということを(昔の編集者は)言っていた。


プロの漫画家の絵は線で描かれているから、模写する漫画家の卵の目も線で描く絵に慣れてしまう。
それでどんどん描いていけるのだがなんとなく、
「これは絵ではないんじゃないか」
と、良心がうずく。
美術の時間やデッサンの本で習った描き方ではないからだ。


その「線で描く絵」を東村アキコは大声で肯定し、
「他に漫画絵の描き方なんかなーい」
と言ってくれた。


誤解を招きそうなので言っておくが、彼女は模写を推奨してはいない。
写真のモデルのポーズを見てそこから輪郭を抽出しろ、と言いたくてこの本を作ったのだそうだ。


痛快。
そして当たり前のことだ、と思う。